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UFC 108:EVANS vs SILVA
2010/1/2@ラスベガス・MGMグランドガーデンアリーナ
五味隆典がUFCと正式契約!



タイトルマッチがなくとも、UFCの盛り上がりは変わらない。2010年一発目のUFC大会を観て、テレビ画面からでも十分に会場の熱さが伝わり、UFCの満足保証を実感させられた。正直、日本人にとっては馴染みが薄い=来日経験ないファイター同士によるメインイベントだったが、これがUFCの、アメリカの最先端なのだ。アイブルやラドウィックといった日本活躍組も出場したが揃って完敗。UFCの今にキャッチアップしていないと、我々日本人はワールドクラスMMAからどんどん置き去りにされてしまいかねない。日本は日本、と割り切るのは簡単だが、ファーイーストの特殊な国になってしまったら今後外国人選手はますます日本の地から遠ざかってしまうだろう。


とは言ってもやはり日本人にとっては心を入れ込んで応援できる日本人ファイターがUFCで活躍してほしい。宇野や岡見、秋山、吉田がUFCに上がってはいるが、できれば毎大会で誰か日本人が出場してくれれば、もっとUFCに向かう目の数は多くなるはずだ。


そこで、五味隆典が来た。
中継の合間にもテロップつきで紹介された。五味が最近公言していた海外進出が遂に形になったことになる。しかも最高峰のUFCである。


PRIDE時代に飛ぶ鳥を落とす勢いでスターダムを駆け上った五味だったが、日本メジャー2団体体制になり、戦極に上がるも精彩を欠いてしまったことは否めない。
修斗に里帰りしたときこそ勝利の味を取り戻しはしたが、まだあの頃の五味からはほど遠かった。


そこで、UFCである。
舞台が大きければ大きいほど開花するのなら、今度の舞台は全米発世界。五味はPRIDE時代以上に弾けてくれるはずだ。
ここ数年元気がないように見えても、みんな五味のあのファイトを忘れていない。
激勝後にコーナートップに立ち、落ちそうで落ちずに吠えてみせる。このシーンが今度はオクタゴンで、金網のてっぺんに立ちあがってみせれば、日本人はもちろん、全米っ子もスタンディングオベーションでウェルカム間違いなし。
問題は、今の五味が期待通りに今のUFCで活躍できるか、ということだ。


五味が闘うライト級はBJペンが不動の王者として長期政権を築いているが、ペンに挑んできたセカンドグループのコンテンダーたちとて、見るからにかなりのハイレベルである。
かつてペンに惨敗を喫してしまっている五味にとって当然目指すは打倒ペンになるが、いきなりチャンピオンシップを組んでくれるほどUFCもやさしくない。もし戦極で王者になり、先の大晦日で青木を破り、文句なしの日本人最強王者としてUFCに乗り込んでくるならば初戦でのBJペン戦もありえたかもしれないが・・・もうこれはない話。
ネット上ではケニー・フロリアン戦が噂になっているが、このフロリアンは王座挑戦経験あるゆえ、妥当な五味の実力査定マッチになる。


ほかサンチェスやスティーブンソン、シャークがBJペンに挑むも皆完敗。UFCもBJペンへの次なる挑戦者を探していたはずだ。そして五味がBJペンに挑む構図を作っていきたいはず。
さあ、あとは五味次第。どこまでやってみせるのか。はっきり言えば、ここ数年の闘いぶりでは絶対にUFCのトップには敵わない。
ここで心機一転、まずはあの頃の強さを取り戻せ。しかしPRIDE時代以上に強くないとUFCのトップには食い込めない。スタミナ切れの姿なんか見たくない。誰か年長の指導者が五味を厳しく引っ張っていくべきではないか。


やっぱり海外がメジャーなスポーツで活躍する日本人選手を応援したい。野球しかりサッカーしかり。
五味はMMAで世界的に名を売るチャンスを得たのだから、ここは死に物狂いで栄光を目指してほしい。
ラスベガスのメインイベントに五味が立つなら、もれなく現地に飛んでいきたい。高坂、宇野、マッハがあと一歩届かなかったUFCの王座を、大きく世界的認知が進んでいる今のUFCの王座を獲れば、五味隆典の名は永遠にワールドMMA界に刻まれることになる。


でも、不安が勝る。本当に五味はいけるのか。五味は絶対にUFC初戦を勝たなければならない。
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日本ではWOWOWでしかテレビ視聴ができず、日本語版DVDとしてセルもレンタルもされていないので、おそらく一般世間には全くと言っていいほど浸透していないUFCだが、格闘技ファンであるならば何がなんでも見て知っておかねばならないことは何度も書いてきた。日本では身近なDREAMや戦極に真っ先に目が行くことは仕方ないが、知らぬところで果しない進化を遂げてなお急加速中のUFCにキャッチアップしない限り真のMMAの姿は見えてこない。日本で認知されていなくともUFCを目指すごく限られた日本のファイターがいることをもっと強く意識するときがきた。

秋山成勲とヴァンダレイ・シウバの対戦が発表された。
秋山はUFCでまだ一戦、ヴァンダレイは黒星が先行している状況で、本場アメリカではアメリカンでなくタイトル争いに距離がある両者の対戦にどれだけ注目が集まるかは微妙なところだが、このマッチメイクこそ日本市場を意識したものであることは明白だ。


日本のPRIDEでブレークし、王者に君臨し、絶大なる人気を博したヴァンダレイ。地上波テレビCMにもキャスティングされた。
ヴァンダレイのアグレッシブなファイトスタイル、KOで決める勝ちっぷり、階級を越えた闘いに挑む勇気。日本のリングでヴァンダレイが残してきた数々のファイトはPRIDEの象徴として日本のファンの心に刻まれている。
現在のUFCでの不振ぶりは日本のファンにとっては悲しさを覚える一方で、目の前で起こった出来事ではないので実感も沸かないというのが正直なところではないか。


一方、そんなヴァンダレイの好敵手・桜庭の新たなライバルとなるはずだったのに、事もあろうか格闘技史に残る悪しき反則を犯し日本での地位を失墜させてしまった秋山だが、UFCを新天地としたことは正しい選択だ。
秋山が強いこと、世界に対抗しうる数少ない日本人ファイターであることは格闘技ファンの誰しもが内心本音で思っているだろう。しかし、日本国内大会に出場する限り憎しみのブーイングは避けられない。さらに秋山の実力に見合った対戦相手選びもままならない。
ならば事実上の最高峰に行って世界の未知の壁に挑むことで、いい形のリセットになる。世界クラスでの実力査定になる。何より勝てば称賛される。力で過去を払拭し未来を創る。
秋山へのアレルギーは拭えなくても、いちファイターとしては注目せざるを得ない。なんだかテレビゲームのいちキャラのような存在に思えてきた。


秋山vsヴァンダレイは“距離があるけど気持ちは届く”、日本人ファンをそんな心情にさせるマッチメイクである。
ライブで観たいに決まっているがそう簡単に現地に行けるわけがない、だからテレビで観るしかない・・・ワールドカップやオリンピックと似た感情と言ったら言い過ぎだろうか。


UFCで非アメリカン対決が今後より多く組まれていくならば、UFCがMMAのワールドカップやオリンピックとなる最短距離にいることになる。かつてのPRIDEがそうだったように・・・。


手の届かないものに羨望の眼差しを送り、それが自ずと世界最高峰を観ることになる・・・アメリカを本拠地とするスポーツがメジャーと呼ばれているようにMMAは『UFC』が代名詞となるのなら、秋山や岡見、宇野、吉田はイチローや松井と同様の立ち位置となる。


日本人がそこにいなければ国民はまったく興味を示さない日本のマーケットでUFCがビジネスをしていくには日本人ファイターの存在が必須である。
そこで、まだまだ実力未知数の秋山は適材だ。
秋山vsヴァンダレイが日本マーケット開拓のブレークポイントとなるか、UFCの手腕に注目だ。
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UFC97:REDEMPTION
2009/4/18@カナダ・モントリオール
“日本代表”長南敗戦に想う



カナダと言えば英雄王者・GSPだが、その主役不在でもフルハウス。UFCがもはや名実共に世界最高峰の舞台であることを疑う余地はないが、だからこそ日本人がUFCで活躍する姿を観たいし心から応援したい。PRIDE消滅後UFCに闘いの場を移した日本のトップファイターも少なくないが、残念ながら岡見を除いては契約更新されずにオクタゴンを後にしてしまっている。新たに秋山や宇野の参戦が決まったが、どうせならもっと多くのワールドクラスジャパニーズが出てきてほしいものだ。そこで今回の長南亮だ。

1勝2敗の戦績で迎えたUFC4戦目、後がない状況に置かれていることは誰よりも長南自身が自覚していたはずだ。いつもにも増した気合いの表情と、戦前に伝わってきたグッドシェイプの報。長南にとってUFCに“選ばれている”今こそファイター人生で最もモチベーションが高まっている時期と言える。
同時期にUFCに渡った中村カズや郷野は先に契約解消の憂き目を見させられている。アメリカ修行も経て真剣かつ精力的に金網に臨む長南の強固な決意が必ずしも結実できないことがリアルファイトの非情な現実である。

カナダの地元選手・TJ相手に“アウェイ”マッチ。逆にこれまでは日本で相手にしていた来日外国人の気持ちが分かるはずだ。試合時の声援だけではない。わざわざ試合のために遠距離移動する労力は大きなハンデとなる。そんなシチュエーションにも関わらず日本にやって来て強さを発揮してきた外国人ファイターたちのように、今度は日本人が外国に乗り込んでいかねばならない。
やはり、そこで必要となる絶対的な評価の基準は勝利以外にない。

致命傷こそもらわなかったものの、長南は全ての局面でTJに優勢を許してしまった。特にTJのテイクダウンとグラウンドには驚かされた。日本人にとっては無名で馴染みなくとも、今や世界規模で次々と優秀なMMAファイターが頭角を現している事実を知る。

かつては日本が総合格闘技の中心地だった。だから世界のファイターは日本を目指した。そして実績を残してきた。
しかし今ではアメリカをはじめとした世界にMMAの場が広がり隆盛の一途を辿っている。だからこそ日本からも行かねばならない。そして結果を残さねばならない。その気でいないと日本は“ガラパゴス”になってしまう。

アウェイで勝つことの難しさと厳しさ。日本でもメジャープロモーションは大会を重ね、かつての栄光を取り戻すべく努力を続けているが、海外にもメジャーが存在する以上避けては通れない。
日本から世界の他舞台にチャレンジすること自体に意義があるが、結果を残さねば世界レベルで存在が認められなくなる恐れがある。

誰よりも長南自身が悔しいに決まっている今回のUFC3敗目。しかし長南は日本人選手の中で間違いなくトップレベルの意識を持っている。
だから中途半端な「よくやった!」などという言葉は長南にとって気休めにもならない。

「勝て!絶対勝て!」

UFCをはじめとした海外参戦する日本人選手たちにかける言葉はこれ以外にない。
それが日本格闘技界のためになる。
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秋山成勲のUFC参戦が正式発表された。秋山といえばあの“ヌルヌル事件”以降ヒール的存在として日本のリングではブーイングの対象となりながらも話題の中心として起用されてきた。たしかに実力も実績も折り紙つきだが、やはりあの事件を犯したこと、そして不正行為の事実にシラを貫いたことへのお詫びがないこと、そんな秋山が過保護されたかのようにリングに上がりイージーファイトを消化してきたこと(三崎戦とカーン戦後の昨年の試合)などから、日本において秋山は微妙なポジションに立っていた。そんな現状を打破しようと同じ柔道出身の吉田秀彦戦をアピールしてみたが結局大きな動きはなし。現役浪人になりかけた秋山が目指すべき道が海外に向いたのは至極当然の流れだ。

昨年11月にFEGとの契約満了後、結局大晦日に秋山の姿はなく、一部で噂された戦極への登場もなく、結果的には渡米して観戦したUFCに行き着いた形になった。
この選択は秋山の忌まわしい過去の汚点を差し引いても歓迎すべきことである。

日本のリングに立つ限りいつまでも桜庭戦の“悪”がつきまとう。もはや秋山は日本では認めてはいけない存在になってしまった。
また現実として秋山に見合う対戦相手が日本でセットされるかも微妙な話だ。桜庭、三崎との再戦が観たいかと言えばイエスと答えるファンはマイノリティだろうし、当人たちもよっぽどの必然性がない限り首を縦に振らないだろう。
一時期、田村が対戦表明したこともあったがタイミングは逸してしまった。

そこで、せめて秋山をリングに上げるならと期待心を抱けたのはワールドクラスの強豪外国人選手を相手にする場合だ。
マヌーフ戦、カーン戦とスリリングな名勝負を演じた上に最高の勝ち方を見せた秋山が、ムサシやジャカレイ、弁慶、メイヘムと闘うなら、過去に目をつむって、是非観たい。
DREAMで幾通りの秋山vs世界が観れたはずなのに、何故か、残念ながら実現しなかった。
DREAMにとっては悔やむべきことだが、秋山にとっては自らの意に反してヒールとなってしまった日本のリングには上がる気が失せてしまっていたのかもしれない。

秋山が日本を離れ海外を目指すのには合点がいく。祖国・韓国ではCM・テレビ出演や歌手デビューなどタレントとして大成功、また海外なら日本で起こした“ヌルヌル事件”へのアレルギー反応も出ないだろう。
ファイター・秋山を色眼鏡なく観てくれるならば秋山の気持ちも前向きになろう。

今や世界最高峰の舞台となったUFCとミドル級契約。
ただでさえ生き残り競争が激化しているオクタゴンで6試合が約束された破格の条件である。
ダナ・ホワイトが「スリリング」と称した秋山のファイトへの期待が大きいことはもちろんだが、ビジネス面での期待がさらに上回るのだろう。
世界戦略をスタートさせているUFCにとってアジアは今後の重要マーケット。日本と韓国と、世界有数の極東の格闘技大国侵略には当然ながらご当地スターが必要不可欠となる。

すでにUFCレギュラー参戦を果たしている岡見、郷野、長南に加え、よりパンチが効いて話題を集める人材として秋山はたしかにうってつけだ。さらに独占交渉権を持った石井慧、復帰が確実視される宇野薫とくれば、日本でも十分にアリーナクラスの大会場でのイベント開催が現実味を帯びてくる。

秋山が属するミドル級では“パウンド・フォー・パウンド”王者としてアンデウソン・シウバが君臨している。岡見が王座を狙える位置にいるが、比較的手薄だったこの階級にヴァンダレイ・シウバが転向を決め、快進撃中のダミアン・マイア、ベテランのダンヘンやフランクリン、リスター、ほか今後頭角を現してくる新鋭を交えていくと、秋山にはさまざまなマッチメイクが用意できる。
日本のように相手を選ぶことが許されないUFCで真の秋山の実力を知ることになる。

思い出してほしい。“ヌルヌル事件”の前、HERO'Sトーナメントを制した瞬間の秋山を観衆は総立ち状態で祝福した。私もその中のひとりだった。
秋山が強いことは分かっている。ファイターとして、アスリートとしての秋山成勲をもっと深く知りたかった。

あの事件を忘れることはできないが、感情を抜きにして、海外強豪相手に闘う秋山なら観たい。
闘いをもってファンの心を取り戻すとはよく言ったものだが、今でも私は秋山にちゃんと謝ってほしいと思っている。クリームを塗ったことではなく、塗ったことをうそぶいたことに。

ブーイングの呪縛から解き放たれた秋山がいかに素のパフォーマンスをしてみせるのか。
金網に秋山は映えそうだ。
秋山に心は預けられないが、ラスベガスでギャンブルの対象として、秋山にドル紙幣を投じてみたい。
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UFC94 ST-PIERRE vs PENN 2
2009/1/31@ラスベガス・MGMアリーナ



UFCの比類なき勢いはオクタゴンに集う選りすぐりのワールドクラスファイターが牽引しているのだと改めて感嘆させられた思いである。今回はUFCにとって二度目となる現役王者同士の究極対決を実現してみせた。
真の“パウンド・フォー・パウンド”決定戦。ウェルター級王者・GSPことジョルジュ“ラッシュ”サンピエールに挑む形になったライト級王者・BJペン。大接戦だった前回から時を経て、満を持して対峙した両者の間にできていた圧倒的な“差”には驚くしかなかった。現実を創ってみせたのはGSPの方だった。

ジョン・フィッチが強い、LYOTOが強い。メインを前にまざまざと見せつけられたMMA“本場”の進化。
さらに輪をかけた磐石さを披露してみせたのがGSP。なんだかとんでもない歴史が刻まれる瞬間に立ち会えている実感にさせられた。それほどまでにGSPはとてつもなく強かった。

あのBJペンが何もさせてもらえない。ライト級では毎度超人的強さで文句なしに世界最強の地位を確立していたBJペンが、ラウンドが進むにつれて見た目に明らかに傷ついていく。
一方のGSPはまるでペンのパワーを吸収しているかのようにペースをもぎ取っていった。

立っても寝てもGSP。ジャンプしながらのストレート“スーパーマンパンチ”をヒットさせ、グラウンドでは完全に支配した。
勝ち名乗りを受けるGSPが実にカッコいいことこの上なし。端正整ったマスクに均整とれたマッチョボディ。さらには礼儀正しい好青年ぶり。
『天が二物を与えた男』と本稿にタイトルしたが、三物をも与えた“ザ・マン・オブ・ザ・ファイター”、旧PRIDE的に言えば“男の中の男”。それがGSP。そこまでベタ誉めするに値する、いや、これが真っ当な評価表現。
完璧すぎてどうするの?とGSPの次以降を案じてしまうのは余計なお世話かもしれないが、それが本音の意見が多数では。まずは決まったチアゴ・アウベスとの防衛戦でさらなるGSPの進化を拝むとしよう。

GSPをはじめとした“格闘技の神”が集結しているUFCを観るたびに心踊らされる。“神の子”KIDもオクタゴンサイドにやってきた。石井慧が最強への直行路としてUFCを選択した気持ちはよく分かる。
“アルティメット”の冠を独り占めするUFCにGSPあり。ほんとに究極である。素晴らしいことだ。
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