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秋山成勲のUFC参戦が正式発表された。秋山といえばあの“ヌルヌル事件”以降ヒール的存在として日本のリングではブーイングの対象となりながらも話題の中心として起用されてきた。たしかに実力も実績も折り紙つきだが、やはりあの事件を犯したこと、そして不正行為の事実にシラを貫いたことへのお詫びがないこと、そんな秋山が過保護されたかのようにリングに上がりイージーファイトを消化してきたこと(三崎戦とカーン戦後の昨年の試合)などから、日本において秋山は微妙なポジションに立っていた。そんな現状を打破しようと同じ柔道出身の吉田秀彦戦をアピールしてみたが結局大きな動きはなし。現役浪人になりかけた秋山が目指すべき道が海外に向いたのは至極当然の流れだ。

昨年11月にFEGとの契約満了後、結局大晦日に秋山の姿はなく、一部で噂された戦極への登場もなく、結果的には渡米して観戦したUFCに行き着いた形になった。
この選択は秋山の忌まわしい過去の汚点を差し引いても歓迎すべきことである。

日本のリングに立つ限りいつまでも桜庭戦の“悪”がつきまとう。もはや秋山は日本では認めてはいけない存在になってしまった。
また現実として秋山に見合う対戦相手が日本でセットされるかも微妙な話だ。桜庭、三崎との再戦が観たいかと言えばイエスと答えるファンはマイノリティだろうし、当人たちもよっぽどの必然性がない限り首を縦に振らないだろう。
一時期、田村が対戦表明したこともあったがタイミングは逸してしまった。

そこで、せめて秋山をリングに上げるならと期待心を抱けたのはワールドクラスの強豪外国人選手を相手にする場合だ。
マヌーフ戦、カーン戦とスリリングな名勝負を演じた上に最高の勝ち方を見せた秋山が、ムサシやジャカレイ、弁慶、メイヘムと闘うなら、過去に目をつむって、是非観たい。
DREAMで幾通りの秋山vs世界が観れたはずなのに、何故か、残念ながら実現しなかった。
DREAMにとっては悔やむべきことだが、秋山にとっては自らの意に反してヒールとなってしまった日本のリングには上がる気が失せてしまっていたのかもしれない。

秋山が日本を離れ海外を目指すのには合点がいく。祖国・韓国ではCM・テレビ出演や歌手デビューなどタレントとして大成功、また海外なら日本で起こした“ヌルヌル事件”へのアレルギー反応も出ないだろう。
ファイター・秋山を色眼鏡なく観てくれるならば秋山の気持ちも前向きになろう。

今や世界最高峰の舞台となったUFCとミドル級契約。
ただでさえ生き残り競争が激化しているオクタゴンで6試合が約束された破格の条件である。
ダナ・ホワイトが「スリリング」と称した秋山のファイトへの期待が大きいことはもちろんだが、ビジネス面での期待がさらに上回るのだろう。
世界戦略をスタートさせているUFCにとってアジアは今後の重要マーケット。日本と韓国と、世界有数の極東の格闘技大国侵略には当然ながらご当地スターが必要不可欠となる。

すでにUFCレギュラー参戦を果たしている岡見、郷野、長南に加え、よりパンチが効いて話題を集める人材として秋山はたしかにうってつけだ。さらに独占交渉権を持った石井慧、復帰が確実視される宇野薫とくれば、日本でも十分にアリーナクラスの大会場でのイベント開催が現実味を帯びてくる。

秋山が属するミドル級では“パウンド・フォー・パウンド”王者としてアンデウソン・シウバが君臨している。岡見が王座を狙える位置にいるが、比較的手薄だったこの階級にヴァンダレイ・シウバが転向を決め、快進撃中のダミアン・マイア、ベテランのダンヘンやフランクリン、リスター、ほか今後頭角を現してくる新鋭を交えていくと、秋山にはさまざまなマッチメイクが用意できる。
日本のように相手を選ぶことが許されないUFCで真の秋山の実力を知ることになる。

思い出してほしい。“ヌルヌル事件”の前、HERO'Sトーナメントを制した瞬間の秋山を観衆は総立ち状態で祝福した。私もその中のひとりだった。
秋山が強いことは分かっている。ファイターとして、アスリートとしての秋山成勲をもっと深く知りたかった。

あの事件を忘れることはできないが、感情を抜きにして、海外強豪相手に闘う秋山なら観たい。
闘いをもってファンの心を取り戻すとはよく言ったものだが、今でも私は秋山にちゃんと謝ってほしいと思っている。クリームを塗ったことではなく、塗ったことをうそぶいたことに。

ブーイングの呪縛から解き放たれた秋山がいかに素のパフォーマンスをしてみせるのか。
金網に秋山は映えそうだ。
秋山に心は預けられないが、ラスベガスでギャンブルの対象として、秋山にドル紙幣を投じてみたい。
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