1
自分で扉を開いた。
目の前に、一本の道が出来ている。
リングまで一直線に続いている道だ。
それを、ゆっくり歩いて行く。
リングへ辿り着くまでに、沢山の声をかけられた。
その声のどれもが、俺を応援する声である。
熱い。
その声のどれもに、熱い熱い温度があった。
その声に呼応するように、俺の鼓動が早くなる。
その声に呼応するように、俺の血液が熱くなる。
試合前のウォーミングアップは充分であった。
だが、そこからさらに高みへ持ち上げられる。
今までにない緊張感。
今までにない高揚感。
凄い。
これがタイトルマッチの空間か。
ただ、浮足立ってはいなかった。
俺は今、間違いなく自分の足でここに立ち、そしてリングへ向かって歩いている。
落ち着いていた。
むしろ、心地良さすら感じていた。
この空気を楽しむ余裕さえあった。
いける。
今の自分ならば、やれる。
自信は、確信に変わっていた。
エプロンに飛び乗り、ニュートラルコーナーに手をかける。
そのまま、ハンドスプリングでリングに入る。
うむ。
軽い。
自分の身体が軽い。
肉体改造で脂肪を落としたからだけではない。
神経が、全身に行き渡っているのである。
髪の一本一本にさえ、神経が通っているかのような感覚であった。
チャンピオンの入場曲が鳴った。
リングに向かって、チャンピオンが真っ直ぐに向かってくる。
視線は、常に僕を捉えている。
凄い視線であった。
今までであったら、この視線だけで捩伏せられていたかも知れない。
だが、今は違う。
真っ直ぐに受け止められている。
そうだ。
まだ始まってはいない。
これからだ。
これからやっと、俺の全てをチャンピオンにぶつけられる。
女性から、花束の贈呈があった。
だが正直、女性の顔は覚えていない。
俺には、もうチャンピオンの顔しか見えていなかった。
ベルトが、コミッショナーに返還される。
喉から手が出るほど欲しい。
それほどまで手に入れたいと思ったものが、かつてあっただろうか?
そう思ったからここにいる。
そう思えたからここにいる。
そしてこれから、ここのさらに先へいくと想っている。
阿部リングアナが、チャレンジャーとして高らかに俺の名前をコールする。
阿部リングアナが、チャンピオンとして高らかにカズ・ハヤシさんの名をコールする。
「良いか?大和」
斉藤レフェリーが声をかけてくる。
「はい、お願いします」
言葉を返したが、既に斉藤レフェリーの姿は見えていない。
俺の視線の先には、もう一人の男しか映っていなかった。
そして、
カン!
ゴングが鳴った。
※続きは、携帯サイト「プロレス格闘技DX」内のコラム「俺たち!F4」に掲載予定です。