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K-1 WORLD MAX 2009
World Championship Tournament -FINAL8-
2009/7/13@日本武道館
○魔裟斗[2R 1'43" TKO]川尻達也●



MAXの象徴的スター・魔裟斗が立つ最後の“己の”舞台。大トリを張る魔裟斗なき後の主役は俺だ!と言わんばかりに新たな人材が日本から台頭してほしいと願う前に、気合い満面で奮闘してみせたのがトーナメントベスト4進出をもぎ取った山本優弥。執念が伝わる心のファイトは観る者の心に届くものだった。HIROYAも成長と逞しさを見せた。日菜太もナチュラルな歓声を誘ってみせた。まだまだ魔裟斗の牙城には遠く及ばないものの、食い気ある闘いぶりが見れたことは大きな収穫だった。一転、肝心のトーナメント及びリザーブマッチは山本優弥を除いて、まるで消化試合のごとき低調ぶり。サワーvsキシェンコは最高峰同士のシーソーゲームなのだが・・・。早くも魔裟斗完全不在のMAXに不安を覚えさせられた。しかし、この日は誰しものお目当てはメインイベントの“異種格闘技戦”。大会開始から4時間後、22時を回った頃にようやく来た本番を迎えたときのボルテージは近年稀に見るものだった。それにしても凄かった。

メインに行く前にひとつ。
会場人気では魔裟斗、川尻に次ぐ別格ぶりを改めて証明したKIDがまさかの豪快完全KO負け。
試合後のバックステージで「スランプだ、スランプだ」とまるで親のように心配していた谷川Pが印象的だった。
KIDのK-1でのやられっぷりは常に衝撃的。これもスターの要素となるのが格闘技という世界の特色である。

そんなKIDの後に敗者復活権を手に入れた佐藤と城戸だったが、とてもじゃないが魔裟斗の後を任せられない試合っぷりに言葉が出ない。本人たちは勝って満足かもしれないが、観る側のファンは正直だし甘くない。
こんなんなら、毎回川尻やKIDのように異ジャンルからトップファイターを招聘して異種格闘技戦を組んでいかないと興行が成立しないのではないか、という思いに至ってしまった。
しかしK-1での異種格闘技戦を担う者はエースの証を得た者のみ。佐藤や城戸が例えばどのMMAファイターとやれば面白いか。残念ながら思い浮かばない。

気を取り直して、メインイベントに移ろう。歓声合戦ではPRIDE〜DREAMの野獣的コアファンを味方につけることに成功した川尻だったが、リング上の勝負では歯が立たなかった。完敗だった。

戦前の宣言通り真っ向から臨んだ川尻だったが、フック系パンチで攻め入る場面を作り沸かせるも、大方は魔裟斗の勢いに飲み込まれてしまった。
キシェンコが魔裟斗からダウンを奪った左を意識していたのだろうか、川尻は左フックから入ることが多かった。そしてアッパーへの繋ぎ。されどクリーンヒットできず。ラウンド途中でガス欠状態に陥り動きも止まってしまった。川尻の何倍もの手数を見せた魔裟斗との差は明らかだった。
悲しいかな、これが現実だった。

「魔裟斗の攻撃は早かった」
と舌をまいた川尻は、
「辞めさせてしまうのはもったいない」
と谷川Pに漏らしたという。
それほどまでに魔裟斗は段違いに勝っていた。

ならば川尻は魔裟斗相手に健闘できたのだろうか。
あえて比較する。同じMMAファイターによる魔裟斗チャレンジで、魔裟斗からダウンを奪い目もつかせぬスリリングな名勝負を演じてみせたKIDに匹敵する内容を川尻は残すことができなかった。
男気は見せた。しかし3ラウンドもたなかった。格闘技ファン、マニアは川尻の心意気をよく分かっている。しかし、大多数のテレビ視聴者、つまり世間一般の目にはどう映ったのか。それが問題であり心配である。

KIDは判定までいったのに川尻は2ラウンドで負けちゃった。
KIDはダウン取ったのに、川尻はパンチを当てられなかった。
川尻はKIDより弱いのかな。
川尻は総合格闘技のトップ選手なのに負けちゃった。
総合格闘技はK-1より弱いのかな。

・・・・・・

平均視聴率15%、瞬間最高19.8%と高い数字を記録した中継で、たしかに川尻の名前を売ることはできただろうが、果たして川尻のファイトを世間に印象づけられたかは正直微妙である。
厳しい言い方をすれば結果的には魔裟斗の格好のやられ役になってしまった。
戦前こそ舌戦合戦で尋常なき盛り上がりに繋がったが、川尻の強さは出せず。

K-1はK-1、MMAはMMA、と競技が違うのだから強さの質も違うというのは当然な意見ではあるが、一般視聴者にその理屈は通用しない。

打撃を含有したものが総合格闘技、K-1を包括したものがMMA。だから総合格闘家はK-1でも強いし勝てるんです。
MMAファイターにはそんな姿勢でいてもらわない限り、もはや世間ではこんな構図で捉えられてしまいかねない。

K-1>MMA

DREAMがテレビ中継されていても、
「あ、魔裟斗に負けた人たちね」
と言われたら悔しいではないか。
しかし残念ながら世間とはこんなもんである。

だからこそ、川尻の結果と内容が残念で仕方ない。
川尻が対世間に失地回復するには魔裟斗にリベンジするしかないがそれは叶わぬ夢。
ならばホームリングのDREAMで魔裟斗戦の過去を思い出させないほどの闘いぶりを見せていかねばならない。

しかし同じDREAMには魔裟斗と接戦したKIDがいる。素人目にはこんな見られ方をしかねない。

川尻<KID

階級の違いは第一印象に及ばない。
DREAMではダントツ人気の川尻が本当の人気を得るには世間への浸透が絶対不可欠だ。
今回、川尻が魔裟斗に勝っていれば、せめて一度でもダウンを奪っていれば、川尻のバリューは大きく跳ね上がっていたはずだ。
川尻の知名度アップ=MMAの認知度アップ。川尻に課せられた期待度はあまりにも大きい。K-1での魔裟斗戦敗退という“負債”をいかなる形で帳消しにし、人気という利潤を得ていくのか。

日本での格闘技が、一般世間をも巻き込んだメジャー展開をしていくのか、コアなマニアの量を増やし質を上げ“ニッチ”で十分成り立つようにしていくのか、川尻の闘い方によって進む道が決まっていく。

私なら、もっともっと多くの人たちに格闘技に触れてもらい好きになってもらいたいたいと考える。
だからこそジャンル代表の川尻にはもっともっと魅せてもらいたい。魔裟斗戦ではもっともっと“らしさ”を見せて欲しかった。

格闘技が純粋に広く理解されて親しまれてほしい。
川尻のような決して派手ではない実力者がオーバーグラウンドに出てくることが、格闘技の真のメジャー化に繋がる草の根運動になると思っている。
“地味強”に世間をギャフンと言わせてもらいたいのだ。

川尻が何もできなかったことが悔しくて、いまだに引きずっている。
世間という厚い壁を打ち破らないと。
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