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自分で扉を開いた。
目の前に、一本の道が出来ている。
リングまで一直線に続いている道だ。
それを、ゆっくり歩いて行く。
リングへ辿り着くまでに、沢山の声をかけられた。
その声のどれもが、俺を応援する声である。
熱い。
その声のどれもに、熱い熱い温度があった。
その声に呼応するように、俺の鼓動が早くなる。
その声に呼応するように、俺の血液が熱くなる。
試合前のウォーミングアップは充分であった。
だが、そこからさらに高みへ持ち上げられる。
今までにない緊張感。
今までにない高揚感。
凄い。
これがタイトルマッチの空間か。
ただ、浮足立ってはいなかった。
俺は今、間違いなく自分の足でここに立ち、そしてリングへ向かって歩いている。
落ち着いていた。
むしろ、心地良さすら感じていた。
この空気を楽しむ余裕さえあった。
いける。
今の自分ならば、やれる。
自信は、確信に変わっていた。
エプロンに飛び乗り、ニュートラルコーナーに手をかける。
そのまま、ハンドスプリングでリングに入る。
うむ。
軽い。
自分の身体が軽い。
肉体改造で脂肪を落としたからだけではない。
神経が、全身に行き渡っているのである。
髪の一本一本にさえ、神経が通っているかのような感覚であった。
チャンピオンの入場曲が鳴った。
リングに向かって、チャンピオンが真っ直ぐに向かってくる。
視線は、常に僕を捉えている。
凄い視線であった。
今までであったら、この視線だけで捩伏せられていたかも知れない。
だが、今は違う。
真っ直ぐに受け止められている。
そうだ。
まだ始まってはいない。
これからだ。
これからやっと、俺の全てをチャンピオンにぶつけられる。
女性から、花束の贈呈があった。
だが正直、女性の顔は覚えていない。
俺には、もうチャンピオンの顔しか見えていなかった。
ベルトが、コミッショナーに返還される。
喉から手が出るほど欲しい。
それほどまで手に入れたいと思ったものが、かつてあっただろうか?
そう思ったからここにいる。
そう思えたからここにいる。
そしてこれから、ここのさらに先へいくと想っている。
阿部リングアナが、チャレンジャーとして高らかに俺の名前をコールする。
阿部リングアナが、チャンピオンとして高らかにカズ・ハヤシさんの名をコールする。
「良いか?大和」
斉藤レフェリーが声をかけてくる。
「はい、お願いします」
言葉を返したが、既に斉藤レフェリーの姿は見えていない。
俺の視線の先には、もう一人の男しか映っていなかった。
そして、

カン!

ゴングが鳴った。


※続きは、携帯サイト「プロレス格闘技DX」内のコラム「俺たち!F4」に掲載予定です。
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6件のコメント


  1. byプロシュート兄貴 on 2010年1月26日 @12時27分

    アツいッ!!

    アツいぞ、大和ヒロシッ!!



    そういえば、このコラムの内容は、もうだいぶ前に決めていたんでしたっけ。



    今日はKAI選手だったから、来週ですね。



    ディ・モールト楽しみですッ!!

  2. byスナッフィ on 2010年1月26日 @14時03分

    あの日の事を 思い出すと 目頭が熱くなります!

    花道で 大和さんに声援を送り、リングの上にいる 大和さんにも 思いっきり、声援を送りました!

    試合中 込み上げてくる涙を出しながら 応援しました(^_^) あの試合を見ながら、私は いつか ジュニア王者になるまで、何がなんでも 大和ヒロシを応援する!って 心に誓いました!会場で 感動の試合が見れた事、幸せに思っています(^_^)本当に ありがとうございます(^_^)

  3. byshino on 2010年1月26日 @15時04分

    あついっす!



    なんで・・・

    大和さんはそんなに熱いんですか?

    格闘技DX入っちゃいますよウィンク

  4. by碧 画夢 on 2010年1月26日 @18時41分

    こんばんは



    大和センセ、後々

    本にまとめられたら

    いかがですか?




  5. byちーこ on 2010年1月27日 @0時13分

    緊張感のあるスポーツ小説の書き出しかと思いきや、実体験なんですもんね、すごいね、大和先生うれしい顔



    書き込みの前に他の方のコメントを拝見して『すごかぁ!私とまったく同じ気持ちの人がおるやん!』と感動したら、やはり浜北大会を観戦されたらしいスナッフィさんでした[星]



    チャンピオンを追い詰めたあの激闘を現地で応援したと思うと嬉しくもあり、

    でも思い出すと、くやしくなってウルッときてしまいます。




  6. byスウィーティ〜 on 2010年1月27日 @10時58分

    実戦を小説にされてしまうなんて…スゴイッ☆人生を楽しまれていますね☆



    文章に引き込まれてしまいます☆