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DREAM.8
2009/4/5@日本ガイシホール
所英男vsDJ.taiki



まるでジキルとハイドのごとく、リングに上がると目を爛々と輝かせ躍動感溢れるムーブを披露する反面、オフ・ザ・リングではとても格闘家とは思えない優男となる所英男。決して演じているわけではないナチュラルなギャップと、勝っても負けても強く印象に残る動きのある試合を演じてくれるところが、所がテレビ映えするゆえんかつ、際立った人気を集める理由なのだろう。観る者に放っておけない身近な存在として感情を移入させる“ピープルズヒーロー”に今回あらぬ異変が見受けられた。一体どうしてしまったんだ、僕らの所くん! KIDのためだけではない、所英男が堂々と弾けるための満を持した企画になるべく『フェザー級グランプリ』だというのに、明らかにいつもと様子が違う所が入場ゲートから歩を進めてきた。

どこか伏し目がちで、視線も定まらない。剃ると言っていた無精髭も伸ばしたまま。ヘアも黒髪がまじり試合前恒例の手入れをしていない。さらには目を強くつむり重い吐息を吐きながら天井を見上げる。ZST参戦を含めて、大見得をきってみせたことはあっても、こんなに悲壮感漂う所の姿は観たことがなかった。

セコンドには前田日明。これも初めてのケースだ。憧れの人がコーナーを固めてくれることに恐縮し緊張しすぎてしまったのだろうか。それとも勝手知ったる間柄であり自分よりも若くキャリアが浅いDJ.taikiに対しては絶対星を落とすわけにはいかないという過度のプレッシャーがのしかかってしまっていたのだろうか。

とにかく、こんなに“陰”な所は初めてだった。観ているこちらまで気分が重くなってくるほどだ。
どうして? どうした? どうすんの? と困惑させられているうちに非情なゴングが鳴らされた。

所の動きが“回らなく”なったのはいつからだろう。
総合格闘技ゆえにさまざまなジャンルの格闘技を修得する必要がある中で、所が定期的に通うようになったのがボクシングジム。その成果は見た目に顕著で、DREAMでのウエノヤマ戦や山崎戦はスタンドパンチで試合のハイライトを作り勝利の明確なポイントとした。構えも変わり、かつての所にはなかった力強い踏み込みと重いストレートが新たな武器になったように見えたのだが・・・ボクシングで上回られ、心をも挫かれた山本篤戦。得意のグラウンドムーブを封じ込められ、“らしさ”を見せることなく、鼻を朱で染め、大きく肩を落とした。

MMAにはボクシングも必要、基礎体力強化も必要だから小出監督の合宿にも参加する。セコンドの前田日明にも教えを乞う。所英男というファイターが成長していくためにどれも大事な糧となる。
でも何かを失いかけてはいないか。それは“奔放”さ。前述した“らしさ”とイコールとなる。
背水の陣で臨んだフェザー級グランプリの一回戦でも所は“回る”ことができなかった。

先に打撃をヒットさせはしたが、あわやの場面を所は生み出すことができずに試合終了のゴングを聞いた。
片やDJは下にならない闘いに徹し、ここぞというときにマシンガンのごときパウンドを集中させるなど、アメリカンスタイルMMAで所を上回ってみせた。
フリーで練習環境もままならないDJにかつての所がダブって見えた。

最先端の、また基本的な技術修得はもちろん必要だが、肝心な試合本番で所の力となるのは、細かい技術アドバイスよりも、精神的バックアップなのではないか。
本能にまかせて自由に動き、自らチャンスを作り、劇的に決める。
所英男が赤丸急上昇でシーンを駆け登ってきたとき、コーナーにはいつも心の支えとなる仲間たちがいた。

「所、集中!気合いだ、気合い!」

こんな声が所の躍動と回転の潤滑油になっていたのではと、過去の数ある所のベストファイトを振り返り、想う。

・・・と、これはあくまでも過去のこと。今現在、所英男は己のバージョンアップの真っ只中。永遠なる成長の途中経過であり試行錯誤期でもある。
痛い敗戦が目立つこの頃だが、所英男の格闘技道はこれからも続く。

人生山あり谷あり。所英男の現状に自分自身を照らし合わせるファンや視聴者も多いことだろう。
また所にはチャンスを掴む天性の運もある。メジャートーナメントで二回目の敗者復活枠獲得。本人は当然苦い思いもあるだろうが、出ると決まった以上は今度こそやってのけてくれるはず・・・何度目の“今度こそ”になるか、それでも所英男から目が離せない。せんな気持ちで所を身近な目線で見る者が多いだろう(もちろん私を含めて)。

ファンの期待を背負い、運を引き寄せる所英男の七転び八起き。
今度こそ、今度こそ、所英男が奔放に回ってくれれば、所英男の激情歓喜と共に僕らも至福を共有できる。

所英男よ、あの頃を取り戻せ!
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