大幅に遅れながらも空港に到着し、集合ゲートへと走ると、ゲート内で
「広田さんですかー!急いで下さい!」と叫んでいる女の人が見えました。
電話で話していたお姉さんです。
私たちは合流し、一緒に走り出しました。

二人で航空会社“チャイナ・エアライン”のゲートへ走る。
成田空港ロビーを人を掻き分け走る。
しかしお姉さんは、走りながら「きっともう無理だと思います」と、
とても冷静に言いました。

「気をつけてね」と送り出してくれた事務所の人たちの顔が思い浮かびました。
ここまで来て“乗れませんでした”なんて許されない話です。
そうなったらもう、性転換してスキンヘッドにして、指紋とか焼きつぶして、
誰にも知られぬよう、別人としてこの国で生きていくしかありません。

ようやく空港を走りきると、チャイナエアラインのゲートが遠くに見えてきました。
「あそこをくぐれば、憧れのタイに行ける…!」

ところが、黒スーツの支配人らしき外国人の男が
突然ゲートの前に立ちふさがりました。
黒スーツの外国人の男は、私たちに向かって
“もう無理だ”とジェスチャーしています。
それもそのはず、時計はすでに9:15を回っていました。

それでも私たちはゲートに駆け込み、
「どうかお願いします。この馬鹿な日本人女を乗せて下さい」と懇願しました。
黒スーツの男は苦い顔をしながら無線機で管制塔か何かに連絡を取り、
面倒くさそうに「ヘイ、開けてやってもいいか?」とか何とか話していました。
私たちは、そのやり取りを祈るように見守るのみです。

黒スーツは無線を切ると首を左右に振り、
目をつむったまま下を向いて深いため息をつきました。

「……!」

私はショックで言葉を失いました。

しかし次の瞬間、スーツは顔をあげ、笑顔で親指を立てました。

「OK、GO!!」

さすが外国人。
頼んでもいないのに芝居がかっています。

こうして、タイへの門はようやく開かれたかに見えました。
ところが…

→続く
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