警備員さんと並んで待つ事、何分が経ったでしょう。
特に会話することもなく、二人だまって距離を保ちながら、
何だか不思議な時間を共有していると、やっと電話の相手が現れました。

その人は以前お仕事でご一緒した、
タイ在住でサーフショップを経営しているJAPAN BOYのM君です。
せっかくタイに行くので、ご挨拶がてらタイの穴場を教えてもらおうと、
現地で落ち合う約束をしていたのです。
そんな彼が、人ごみをかき分けて現れました。

私は彼を見つけると、「いた!サンキュー、いたの。ほんとにサンキュー」と、
押し付けがましいほどの感謝の表情で“ズイィ”と警備員に近寄り、
ガンダム携帯を半ば押し戻しながら、丁重に感謝の意を述べました。
だってここで私が好印象を残さないと、この先、
彼にとっての日本人のイメージが悪くなってしまいますからね。
しかも相手は警備員、国際問題になりかねませんよ。
私はしつこいぐらいにサンキューを繰り返して警備員と別れ、
M君にブンブン手を振り回して近づいていきました。

感動の対面です。
そんな彼の第一声は「…荷物それだけ?」でした。
彼が驚いたのも無理ありません。
私の荷物といったら、小さめの肩掛けカバン一つだけだったのです。
しかも中には着替え一着分と変圧器と『地球の歩き方』の本、
後は日本から着て行ったセーターだけしか入っていなかったので、
むしろカバンの中は余裕があるぐらいでした。

「ほんとにバックパッカーみたいだね」

元バックパッカーの彼に言ってもらえて、何だか嬉しかったです。

「そう、今回の旅はノンキなOLさんの観光とは違うからね」

私は笑顔でそう言葉を返しつつ、
実のところラーメン缶や化粧品をはじめとする荷物の大半は
空港で没収されたことを思い出し、悲しみがよみがえったのでした。

→続く
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