スネークファームからの帰り道、次はどこへ行こうか当てもなく歩いていると、おじいさんが声をかけて来ました。

爺「もし、どこへ行くのかな?」
広田「別に決めてません」
爺「観光か?行きたいところはあるのか?」
広「アユタヤ(タイの中でも最上級に有名な観光地、寺とか仏像がある地域)には行きたいです」

アユタヤの言葉が出たとたん、爺の動きが止まりました。

爺「お嬢さん、ちょいと木陰に入りなせぇ」。

爺は私を木陰に連れて行きました。

爺「お嬢さん、タイと日本の間にはとても古い歴史がある。そのすべてが、アユタヤには詰まっている」
広「はい。ではぜひ明日行きます」
爺「うむ。ではその前にこれから、いいアクセサリー屋に連れて行ってあげる。付いて来なせぇ。見るだけ、見るだけ」
広「…は?」

どこかで聞いたフレーズ。
でも、爺に弱い私は断りきれず、付いていくとそこは見るからに怪しい宝石店。
中に入ると、エメラルド、サファイア、クリスタル“風”の石が並んでおり、それに混じって、亀の標本や何かの毛皮など、とにかく高級品っぽい物がところ狭しと飾られていました。
当然客などおらず、私が入っても「いらっしゃい」も言わずに、3人の店員がよそ者を見る目で私を遠巻きに見ていました。
10秒いなかったでしょう。
私はすぐに退散しました。

爺は店の前で待っていて、私が出てくると、「何も買わなかったのか。では次は服屋に案内してやる」とぐいぐい手を引っ張っていきます。
“服屋?!”と、デジャブにおののいていると、窓がすべてマジックミラーになっている、ありえない服屋に到着。
私がためらって「待ってください」という前に、爺はバーンとドアを開けました。
そこは…服屋というか、ぱっと見は布屋でした。
巻物状の高級そうな布がずらっと赤絨毯に敷き詰められている、すべてオーダーメード製の洋服屋でした。
客はいかにも金持ちそうな欧米人が大半で、ドレスの金額も日本円で最低15〜20万のものを勧めてきます。
私はもうヤケになり、買うそぶりを見せて、いろいろ聞いたところで帰ろうと決め込みました。
しかし、私の質問攻めが店員に“コイツ、興味だけで買う気ないな”というのがバレたようで、「あなた、買わないなら、帰るね」と、半ば追い出されるように帰らされました。
しかも入る時は立派な正面玄関だったのに、買わないとわかったら、ねずみが死んでいるような臭くて暗い裏通路から店を追い出されたのでした。

爺はそれすらも読んでいたかのごとく、裏通路で待っていました。
そして「次はアユタヤの切符を安く手に入れさせてやる」と、観光局に行かされました。

要は、街ぐるみなんですよ。
トゥクトゥク運転手だけでなく、タイの一般住民も、観光客を店に連れてきたらいくら、客が何
か買ったらいくら、という暗黙の制度になっているようなんです。
だから観光局で明らかに高額なアユタヤ行きの切符を吹っかけられた私が、「いらない」とごねていると、とうとう我慢の限界になった爺が「なぜ買わん!人の親切を!お前はとんでもない日本のメス豚だ!」と罵ったのでした。

みなさんも少しおかしいと思ったら、「行かない・買わない・油断しない」を守って行動しましょう。
爺にはそこで見限られ、観光局の人間にも「あんたは駅で普通の切符を買えばいい。この日本のメス豚が」と最後まで罵られ、メス豚は店を後にしたのでした。

続く→
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