「僕の携帯を使いたまえ」

警備員は私に向かっていったのです。

「リアリー?!」

私は思わず叫びました。
一体どこの国に、道に迷ったバカ日本人にやすやすと自分の携帯を貸す人がいるでしょう。
いました。
ここにいました。
日本の交番は、トイレも貸さない決まり事があるのに。
なんという親切な人。
あなたは道に迷った見ず知らずのタイ人に携帯を貸しますか?

私はまたもバカみたいに「サンキューサンキュー」を連発し、電話を借りました。

「もしもし?さくらだよ」
「へ?誰の携帯からかけてるの?」
「その辺にいた警備員の人」

貸してもらいながら“その辺にいた”とは失礼ですが、
長く説明している場合じゃありません。
とにかく自分の居場所を伝え電話の相手と落ち合うことが先決です。

「今何が見える?」、
「セブンイレブンとコダックがある!」
「う〜ん、タイにはセブンイレブンとコダックはそこらじゅうにあるんだよ。他には?」

私は十分な目印だと思ったんですが、相手にこう聞き返されてしまいました。
私は他の目印を探す前に“タイってそんなに開けてるんだ…コンビニなんてほとんどないと思っていたのに…”と、タイに失礼な感想を抱いたのでした。

「え〜…サブウェイがある」と、とにかく目に入ったモノをいうと、
「サブウェイね!サブウェイはそこしかないから!よし、そのまま携帯持ってサブウェイにいて。近くなったら電話する」

ああ、ありがとうサブウェイ。
オンリーワンのサブウェイ。
『カウサンロードでのお待ち合わせは、ぜひサブウェイで』
思わずタイ観光に来る日本人向けの宣伝文句を思いつきました。

やっと会える。
でも相手は簡単に“携帯持って”といいましたが、携帯は私のではありません。
とっさの英語も思い浮かびませんでしたが、
ここはとにかく警備員に頼むしかないので、私は振り向きざまに
「お願いお願い、もう少し電話貸して、友達がここに来るの、ココに、ココに」と、
拝みポーズと携帯を握り締めるポーズと自分の足元を指差すポーズをひたすら繰り返しました。
警備員はあからさまに顔を歪めましたが、この変なジェスチャーをしている日本人をこれ以上興奮させたらヤバイと思ったのか、渋々「OK、OK」と携帯を貸してくれました。

なんていい人なんだ!
私はまたバカみたいに「リアリー?!」を繰り返し、
自分のもののように携帯を握り締めていました。
ちなみに、その警備員の携帯の待ち受け画面は“ガンダム”でした。

→続く
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