やっと機内に乗り込めた私は、席に座りくつろぐ準備をしました。
まず、握り締めていた帰りの航空券を確認してカバンにしまい…

うん?帰りの航空券?

…ないんですけど、券が。

「これ、帰りのチケットと乗継ぎ用のチケットですから、なくさないで下さいね」と、
お姉さんが私の手にねじ込むように渡してくれた封筒の中には、
乗り換えのチケット(今回は台北で乗り換え)と、
帰りの飛行機の集合時間が書いてある紙が一枚。
あとは何もありません。

あんなにバタついた中だったから、お姉さんが入れ忘れた?
あるいは、焦っていた私がどこかで落とした?

様々な詮索が頭をよぎります。
ちなみに帰りの集合時間も、もちろん搭乗の2時間前。
私は嫌というほどその時間を確認しましたが、肝心の券がなければ無意味です。

飛行機は滑走路を走り、まさに大空へ飛びたとうとしています。
私が血相変えて券を探していると、客室乗務員さんが
「荷物は足元へしまってください。シートベルトをお閉めください。」
と駆け寄ってきました。
もっと荷物をひっくり返して探したかったのに…。

レクター博士のようにシートベルトで身動き取れなくなり不安は募るばかり。
機内では「ウエルカム・トゥー・チャイナエアライン」とか
陽気なアナウンスが聞こえてきます。
私がチケットのショックと気圧の変化で目がチカチカしてるってのに、
まったく人の気も知らないで…。

帰りの案内の紙を読むと「封筒内にチケットがあるか必ず確認してください。
また、本封筒を受け取り後の航空券の再発行は原則としていたしません」
と書いてありました。
だから、ないってば。

私は考えました。「帰りの券を買ったら滞在費がなくなる。
タイの銀行で口座を開いて、そこに世津子に入金してもらおう」
偶然にも、念のため持っていった『すぐ話せるタイ語』の冊子に
“口座を開く会話”という項目があったのです。

それにしても、チケットを確認っつったって、あんなにバタバタしていたし、
ラーメン缶に気を取られていたし、コレは不可抗力です。
そもそも、遅れたのは私だけど、チケットが入ってないのは私のせいじゃなく、
むしろお姉さんです。

不安はいつしか、逆切れに変わりました。
気が付くと客室乗務員さんが機内食と飲み物を配っていたので、
私はとっさに言いました。

「ワイン下さい」

こんな状況、飲まずにいられるかってんですよ。
逆切れはいつしか、開き直りへと変わりました。

ああ、とりあえずワインがうまい。
何も解決しないまま、次回へ続く。
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