試合は終わったけど,奥さん,チャンネルはそのままでお願いします。
「おい,神…!!」
ケンタがマイクを取る。
「悔しいじゃねえか,悔しいじゃねえか,悔しいじゃねえか…!!」
「俺はな,お前のことが初めて見たときから大ッ嫌いだったよ…!!今日もな,憎くて憎くて気に入らなかったけどな,一周回ってちょっぴり好きになったわ…」
場内から笑い声が上がるが,後々よく考えてみたら,一周回ると元に戻ってやっぱり大ッ嫌いになるんじゃないの…?
…などと思ってしまったのだが,こういう重箱の隅をつつくようなつまらないことは言わないよ(←書いてるけど)!!
「神…俺とお前のサイクルは2年。初めて闘ったときから2年ごとにタイトルマッチをやってきた…そして今日がここだ。2年後,俺はまたお前に挑戦するぞ。そのときお前がそのベルトを持っていなかったら何の意味もねえ。俺が挑戦するまでそのベルト,持ってろ…!!絶対,負けないでね!!」
何で語尾が「ね」なんだか解らない,しかも,あまつさえかすかに首をかしげながらだったのだが,可愛かったからよしとする(笑)。
負けてなお潔く,そして愛らしく吠えて退場してゆくケンタをみんなが拍手で見送った。
今度は神がマイクを取る。
まだ自分が勝ったという実感がないようだった。
「何だよ…!!昔入ってきたときはよ,まともにマイクも握れなかった奴がよ,よぉ―くそんな口が叩けたよケンタ…!!」
確かに。私が4年前に観始めたときに比べたら,ケンタさんのマイクは格段に上手くなっている。
「俺もお前が…好きだったよ,ずっと…!!」
何なんですか貴方たち(笑)!!
「…可愛い後輩だったよ…いつの間にか肩を並べやがって…!!いつの間にか俺より先を歩きやがって…!!何だか俺はこんな,3冠統一とか,そんなのどうでもよくなってさ…おいケンタ,俺にはお前しか見えなかった。本当に強くなった。スナイパー・ケンタ…ありがとよ…!!」
実に,実に清々しい…!!泣いてもいいですか…?
「何しろケンタ,俺とお前のベルトを巡る抗争は今日で一段落だ。俺もお前もやりたいことが出来ちまったよな。ケンタ,聞いてるよ色々と」
ええええ…?何だろう…?
「だから,俺もやりたいことをやらせて欲しい…新根室プロレス代表・サムソン宮本さん,どちらにいらっしゃいますか?出てきて下さい」
UWFのテーマが大音量で流れ,手拍子の中,特設テントの中から深々と頭を下げて(そうしないと出られない)現れたのは…
サムソン宮本!!
ある種のファンの胸には異常なくらいの高陽感をかきたてるこの曲のせいか,前日に放送された『熱烈!ホットサンド!』効果か,全試合終了したというのにまだ熱狂は止まらない。
また,彼が登場するといつも心躍る出来事が必ず起きる…そんな予感がするから。