恋愛映画は苦手。
恋愛自体に興味がないため,観ても結局は他人事。
「若いってのはいいねぇ~」で終わってしまう。
だが,「ひとを愛すること」については常に真剣に考えているので,悲恋ものや極限状態の中で貫く愛の物語,そして,愛を知って変わってゆく人の物語は大好き。
今回書く『ソン・ランの響き』はベトナム製の,ポスターのキャッチコピーによれば「ボーイ・ミーツ・ボーイ」映画らしかったが,昨年秋に観た『第三夫人と髪飾り』,そして冬に観た『サイゴン・クチュール』が素晴らしかったので,何となく自分とベトナム映画との相性は良さそうだ…と勝手に決めつけ,観に行くことに決めた。
これが,大正解。大当たりだったのだ。
『クーリンチェ少年殺人事件』を観たときに感じたようなノスタルジア。
全体的に埃っぽくセピア色っぽい映像なのに,光と影のコントラストが美しく,観入ってしまう。
舞台は1980年代の,ホーチミンになる前のサイゴン。
ゲームショップのレジで無表情にビデオデッキを次々押収する男。
男はどうやら借金の取り立て屋で,返済出来ないなら代わりに持ってゆくぞということで,子分の若者に押収させているのだった。
店長は「勘弁してくださいよぉ~」と泣きっ面だが,男はふと,レジの上のソフトに目を留める。
「これですか?今日入荷したばかりで…金はいらないですよ,あげますよ」
そう云う店長に,「これと仕事とは別だ」と云って,男はきちんと金を払いソフトを購入する。
男は高利貸しに雇われている,「雷のユン兄貴」と恐れられる取り立て屋で,返済を渋る客には情け容赦なく暴力行使。
そんな非情な彼の楽しみは,ファミコン(1980年代だから!!)。
映画の冒頭では,ユンの仕事や生活について描写されている。
狭いが,居心地の良さそうなアパートに独りで住んでおり,小さなテーブルで酒を呑んだり食事をしたり,テレビに向かって夢中になってゲームをしたり。
たまに職場のおねいちゃんを部屋に引き入れセックスもするが,どういう訳かベッドではせず,床の上でしかしないので,「背中が痛い」と文句を言われる。
バスはついていないのか,洗面台で汲んだ水を頭からかぶってシャワー代わり。
アパートの屋上でシャドー・ボクシングをしたりタバコを吸いながらぼ~っとしたり。
ネオン(灯ってはいないのだが)のロゴマークによりかかって座るシーンは凄くカッコいい。
そんなユンだが,部屋の奥には父親の遺影が祀ってあり,朝起きたときには窓辺に置いてある鉢植えに丁寧に水やりをしている…
プライベートはそんなに荒んでいる訳でもなさそうだ。
ますますもって興味深い男なのだった。
唐突に,針金を曲げて作ったメガネをかけた幼女のアップが映る。
取り立て先の家が子供だけだったため,あがって待たせてもらっているのだと判る。
可愛い姉妹で,よく解っていないのか取り立て屋のユンを怖がるでもなく,妹は「学校の先生ごっこをしてるの」と説明し,姉は礼儀正しくお茶と果物を出してもてなしているのだった。
果物の種部分を切り取るために,自前のナイフを取り出したユンは,姉妹の食べる分を先に切ってから手渡してやる。
そんな優しいことをしていても無表情のままだが,実は結構子供が好きなんじゃなかろうか…と思ってしまった。
そこへ,姉妹の両親が帰って来る。
払えないと判るとユンがそこいらにある物を壊し始めたので,危険を感じた両親は姉妹たちに「奥の部屋に行ってなさい!!」と命じる。
驚いたのが,少し前まで一緒に穏やかに過ごしていた姉妹たちにユンが突進して行き,連れ出そうとしたように一瞬,見えたこと。
まだ小学校にも上がらない年頃の女の子をどうするつもりだったんだろ…!?
だが,わあわあ泣かれて思い直したか,父親にだけ暴行を加えると,「明日また来る」と言い捨てて引き上げて行った。
物騒で,だがどこか翳りがあって寂しそうな男なのだが,一度取り立てると決めたら本当に情け容赦ないのだと判る。
その夜,ユンは街の大衆劇場に足を運ぶ。勿論,仕事でだ。
カイルオンというベトナムの伝統歌舞劇の劇団が連日公演を行っているのだが,この劇場の佇まいがまた,よかった。
昭和の古い映画館のように,看板が写真ではなく絵なのだ。
役者たちの顔がずらりと絵で並んでおり,上演演目の看板も絵。
ユンが入って行ったのは控え室で,借金をしているのは女座長。
巡業では大赤字だったため,ホームであるサイゴンに戻ってきて何とか返済するつもりなのである。
「明日の公演が終わったら払えるから,もう1日待って」
そう懇願するのを横目に,控え室にあった衣装を次々ハンガーからむしり取って積み上げ,何か液体をふりかける。
そして,ポケットから取り出したライターに火を点けた瞬間,「何をしてるんだ…!?やめろ!!」と1人の青年が止めに入ってきた。
彼はこの歌劇団の看板役者のリン・フンといい,ひじょうに整った顔立ちの美しい青年であった。
ここで私はドキッとしてしまった。
というのは,若い頃の…私が好きになり始めた頃の円華さんにとても雰囲気が似ていたからだ。
顔も少し似ていたかもしれない。
ベトナムにあんなきれいなお兄さんがいるなんて…とびっくりしてしまったよ。
後で判ったことなのだが,リン・フンの役を演じた俳優さんは,元人気アイドルグループ出身。
どうりで美形だし,歌も上手いはずだと納得。
「衣装がなければ公演が出来ないわ…お願い」
必死で頼む女座長。
ここでまたしょうもない私は, 彼女の左顎に大きなホクロがあり,そこから思いッ切り,かなり長い毛が生えているのが気になって仕方がなかった。
でも,この映画を観た人はみんな気になったと思う(笑)。
リン・フンは自分の腕から時計と,そして首から鎖だけのネックレスを外すと,「今日はこれで勘弁して欲しい」とユンに差し出すのだが,ユンは何を思ったのか,受け取らずに去ってゆくのだった。
これが,ユンとリン・フンの出会いであった。
(続く)
恋愛自体に興味がないため,観ても結局は他人事。
「若いってのはいいねぇ~」で終わってしまう。
だが,「ひとを愛すること」については常に真剣に考えているので,悲恋ものや極限状態の中で貫く愛の物語,そして,愛を知って変わってゆく人の物語は大好き。
今回書く『ソン・ランの響き』はベトナム製の,ポスターのキャッチコピーによれば「ボーイ・ミーツ・ボーイ」映画らしかったが,昨年秋に観た『第三夫人と髪飾り』,そして冬に観た『サイゴン・クチュール』が素晴らしかったので,何となく自分とベトナム映画との相性は良さそうだ…と勝手に決めつけ,観に行くことに決めた。
これが,大正解。大当たりだったのだ。
『クーリンチェ少年殺人事件』を観たときに感じたようなノスタルジア。
全体的に埃っぽくセピア色っぽい映像なのに,光と影のコントラストが美しく,観入ってしまう。
舞台は1980年代の,ホーチミンになる前のサイゴン。
ゲームショップのレジで無表情にビデオデッキを次々押収する男。
男はどうやら借金の取り立て屋で,返済出来ないなら代わりに持ってゆくぞということで,子分の若者に押収させているのだった。
店長は「勘弁してくださいよぉ~」と泣きっ面だが,男はふと,レジの上のソフトに目を留める。
「これですか?今日入荷したばかりで…金はいらないですよ,あげますよ」
そう云う店長に,「これと仕事とは別だ」と云って,男はきちんと金を払いソフトを購入する。
男は高利貸しに雇われている,「雷のユン兄貴」と恐れられる取り立て屋で,返済を渋る客には情け容赦なく暴力行使。
そんな非情な彼の楽しみは,ファミコン(1980年代だから!!)。
映画の冒頭では,ユンの仕事や生活について描写されている。
狭いが,居心地の良さそうなアパートに独りで住んでおり,小さなテーブルで酒を呑んだり食事をしたり,テレビに向かって夢中になってゲームをしたり。
たまに職場のおねいちゃんを部屋に引き入れセックスもするが,どういう訳かベッドではせず,床の上でしかしないので,「背中が痛い」と文句を言われる。
バスはついていないのか,洗面台で汲んだ水を頭からかぶってシャワー代わり。
アパートの屋上でシャドー・ボクシングをしたりタバコを吸いながらぼ~っとしたり。
ネオン(灯ってはいないのだが)のロゴマークによりかかって座るシーンは凄くカッコいい。
そんなユンだが,部屋の奥には父親の遺影が祀ってあり,朝起きたときには窓辺に置いてある鉢植えに丁寧に水やりをしている…
プライベートはそんなに荒んでいる訳でもなさそうだ。
ますますもって興味深い男なのだった。
唐突に,針金を曲げて作ったメガネをかけた幼女のアップが映る。
取り立て先の家が子供だけだったため,あがって待たせてもらっているのだと判る。
可愛い姉妹で,よく解っていないのか取り立て屋のユンを怖がるでもなく,妹は「学校の先生ごっこをしてるの」と説明し,姉は礼儀正しくお茶と果物を出してもてなしているのだった。
果物の種部分を切り取るために,自前のナイフを取り出したユンは,姉妹の食べる分を先に切ってから手渡してやる。
そんな優しいことをしていても無表情のままだが,実は結構子供が好きなんじゃなかろうか…と思ってしまった。
そこへ,姉妹の両親が帰って来る。
払えないと判るとユンがそこいらにある物を壊し始めたので,危険を感じた両親は姉妹たちに「奥の部屋に行ってなさい!!」と命じる。
驚いたのが,少し前まで一緒に穏やかに過ごしていた姉妹たちにユンが突進して行き,連れ出そうとしたように一瞬,見えたこと。
まだ小学校にも上がらない年頃の女の子をどうするつもりだったんだろ…!?
だが,わあわあ泣かれて思い直したか,父親にだけ暴行を加えると,「明日また来る」と言い捨てて引き上げて行った。
物騒で,だがどこか翳りがあって寂しそうな男なのだが,一度取り立てると決めたら本当に情け容赦ないのだと判る。
その夜,ユンは街の大衆劇場に足を運ぶ。勿論,仕事でだ。
カイルオンというベトナムの伝統歌舞劇の劇団が連日公演を行っているのだが,この劇場の佇まいがまた,よかった。
昭和の古い映画館のように,看板が写真ではなく絵なのだ。
役者たちの顔がずらりと絵で並んでおり,上演演目の看板も絵。
ユンが入って行ったのは控え室で,借金をしているのは女座長。
巡業では大赤字だったため,ホームであるサイゴンに戻ってきて何とか返済するつもりなのである。
「明日の公演が終わったら払えるから,もう1日待って」
そう懇願するのを横目に,控え室にあった衣装を次々ハンガーからむしり取って積み上げ,何か液体をふりかける。
そして,ポケットから取り出したライターに火を点けた瞬間,「何をしてるんだ…!?やめろ!!」と1人の青年が止めに入ってきた。
彼はこの歌劇団の看板役者のリン・フンといい,ひじょうに整った顔立ちの美しい青年であった。
ここで私はドキッとしてしまった。
というのは,若い頃の…私が好きになり始めた頃の円華さんにとても雰囲気が似ていたからだ。
顔も少し似ていたかもしれない。
ベトナムにあんなきれいなお兄さんがいるなんて…とびっくりしてしまったよ。
後で判ったことなのだが,リン・フンの役を演じた俳優さんは,元人気アイドルグループ出身。
どうりで美形だし,歌も上手いはずだと納得。
「衣装がなければ公演が出来ないわ…お願い」
必死で頼む女座長。
ここでまたしょうもない私は, 彼女の左顎に大きなホクロがあり,そこから思いッ切り,かなり長い毛が生えているのが気になって仕方がなかった。
でも,この映画を観た人はみんな気になったと思う(笑)。
リン・フンは自分の腕から時計と,そして首から鎖だけのネックレスを外すと,「今日はこれで勘弁して欲しい」とユンに差し出すのだが,ユンは何を思ったのか,受け取らずに去ってゆくのだった。
これが,ユンとリン・フンの出会いであった。
(続く)